今回は「正しいニーグリップの仕方」というテーマでお話していきます。
僕は指導員・ライスク講師という立場上、初心者から競技者まで様々なレベルのライダーを指導したり観察したり時には議論したりする機会が人よりも多いですが、いわゆるバイクの運転が上手い人でニーグリップを軽視する人というのは極少数派です。
ゼロではなく極少数派と表現した理由については後ほど解説しますが、要するにニーグリップはバイクを上手く扱うためには必須テクニックと言っても過言ではないということです。

じゃあ明日から思いっきり膝でタンクを挟もう!
と思った方、それは大きな間違いです。
ニーグリップはやり方を間違えると無意味なだけではなく悪影響を及ぼす可能性もあるので、今回は正しいニーグリップの仕方について解説していきたいと思います。
①膝である必要はない
1つ目は膝である必要はないです。
そもそも何故ニーグリップをしないといけないのかを端的に説明すると、上半身に過度な力が入らないようにするため、かと言って全ての力を抜いてしまうと身体と車体の動きがバラバラになってしまうため、下半身で車体をホールドする必要があります。
そしてこれは少しマニアックな話しになりますが、下半身に適切な力が入っていると体幹部分 分かりやすく言うと腹筋などにも自然と力が入ることで理想とされている運転姿勢を維持しやすくなったり、身体の重心位置が下がることで安定感が増します。
という理屈を初心者さんやスポーツ経験の浅い方に説明しても理解が難しく、すぐに100%体現できるものでもないので、身体の構造上膝を閉めておけば触りだけでもこれらの効果を得ることができるという理由から、ニーグリップ=膝でタンクを挟むと表現されているのだと個人的には考えています。
ただ察しの良い人であれば気付いているかもしれないですが、要は下半身を意識すること・体が振られないようにすることがニーグリップの主な目的なので、同じような効果を得られるのであれば膝に限定する必要はないということです。
例えばオフロードを走っているライダーを想像してみてください。
スタンディングでニーグリップをしていないのにも関わらず、砂利道でもかなりの安定感がありますよね。
これはくるぶしグリップといって、ボディアクションが重要となるオフロードではニーグリップを行うと身体の可動域が損なわれるため、くるぶしによるホールドが適切とされています。
次にニーグリップについて解説すると必ず

MotoGPライダーは片足を開いてニーグリップなんてしてない!
という方が現れるのですが、そもそも僕ら素人と競技者を同一視するのは無理があります。
ただMotoGPライダーだけではなく、いわゆる膝擦りなど片足を開いて走行しているような人たちは、何も下半身でのホールドを捨てているわけではなく、もう片方の足でステップを蹴り出す力と膝でタンクを押す力を生じさせてしっかりと下半身を安定させています。
そしてもう1つ

アメリカンはニーグリップなんてしなくても上手く乗れる!
という方もいますが、確かにアメリカンも膝でタンクを挟むという行為は行わないですが、ステップの位置的に足を投げ出す姿勢になることから、足を突っ張る力とお尻や腰をシートに押し付ける力を利用してニーグリップと同じような効果を得ることができます。
少し話しが長くなってしまいましたが、ニーグリップに求める効果というのは下半身を上手く使えば膝でなくても得ることができ、車種やシチュエーションに限らず安定感のあるライダーというのは、一見するとニーグリップを行なっていないように見えても、ニーグリップと同じようなことはしているということです。
記事の冒頭で「バイクの運転が上手い人でニーグリップを軽視する人は極少数派」という表現をした理由はこれで、ニーグリップは必要ないという方の意見を見聞きしていると、結局は膝でタンクを挟むという形はとっていないだけで下半身のどこかで同じようなことをしています。
極端な話しステップやシートに体重を乗せる・筋肉ではなく骨で踏ん張るという身体の使い方ができる人であれば、よほどスピードを出したり激しいブレーキングを行わない限りは、ヤンキーみたいに膝を開いていようがバイクを上手く運転することはできます。
しかしスポーツ経験が豊富な方なら分かるかと思いますが、体重を乗せる・骨を使う・重心位置を変えるというのはかなり鍛錬しないとできることではないので、やはり初心者さんやスポーツ経験の浅い方はシンプルなニーグリップを行なって身体の使い方を脳に覚えこませることから始めるべきだと思います。
②常時強く閉める必要はない
2つ目は常時強く閉める必要はないです。

やっぱりニーグリップは大切なんや!明日から頑張ろ!
と息巻いている方もいるかもしれないですが、ちょっと待ってください。
ニーグリップを意識して運転することは大切ですが、正直公道をただただ真っ直ぐ走るような状況においてはニーグリップなんてしなくても普通に走れます。
もちろん身体に覚えこませるために常時強く膝を閉めるというのは1つの鍛錬方法なので決して間違いではありません。
ただ常時強く膝を閉めるというのは疲労が溜まるのはもちろんのこと、逆に運転姿勢においてデメリットを生じさせる原因にもなってしまいます。
これは実際にやっていただくと分かりやすいかと思いますが、拳やクッションなど何でも良いでの痛くない程度に太ももで挟んでみてください。
今皆さんは太ももで挟むということしか意識していないのにも関わらず、腹筋にも力が入っていると思います。
これが1つ前の内容でお話した理想とされている運転姿勢を維持するために腹筋、細かく言うと骨盤や股関節が使えてい状態です。
ではそこから更に太ももを強く閉めていってください。
そうすると腹筋だけではなく上半身全体が力んだ状態になってしまった方も多いと思います。
ちなみのこの動作を教習生にバイクに跨った状態でやっていただくと、下半身と上半身の動きを分離できず肩まですくんでしまう方がかなり多く、皆さんの中にも一本橋の練習中にこのような症状が出てしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。
下半身と上半身を分離させて身体を使うというのは思っている以上に難しく、ホームランを打ってやろう!シュートを決めてやろう!右ストレートでぶっ飛ばす真っ直ぐいってぶっ飛ばす!と息巻くと、よりこのような症状が出やすくなってしまいます。
なので僕自身指導をする際は

ニーグリップをしっかり意識して運転しましょう
と言うこともありますが、これはあくまでもニーグリップやニーグリップと同じ効果を得られるようなテクニックが身に付いていなかったり、無意識のうちに膝が開いてしまっている方に向けたアドバイスです。

じゃあニーグリップなんてしなくても良いや〜
というのも間違いで、意識的にニーグリップを強めた方が良い状況というものたくさんあります。
例えば強めのブレーキングを行う際にニーグリップが甘いと体が前のめりになって過度にハンドルに力を加えてしまったり、低速走行時にただでさえバイクがフラつこうとしているのにニーグリップが甘く自分の体まで不安定になってしまうのは良くないですよね。
このようにニーグリップは状況に応じて強めたり弱めたりする必要があり、ただ膝を力強く閉め続ければメリットがあるというものではありません。
では日常的にはどのようにしてニーグリップをすれば良いのか、次の内容でお話していきます。
③膝が閉まらない原因
3つ目は膝が閉まらない原因です。
ここまでの話しを聞いていると逆にニーグリップがよく分からなくなってしまった人もいるかもしれません。
また元よりニーグリップの重要性は分かってはいたけど、気付いたら膝が開いてしまうという方も少なくないと思います。
そういった方々は、膝を意識するのではなく先ずはつま先を真っ直ぐ向けて走ることを意識してみましょう。
これも実際にやっていただくと分かりやすいかと思いますが、椅子に座っている状態もしくは立っている状態でつま先を開いてください。
至極当然のことですがつま先を開くと自然と膝も開いたのではないでしょうか。
そしてつま先を開いた状態のまま膝を閉めようとしてみてください。身体の構造的にかなり無理のある動きになっていることが分かるかと思います。
今度は逆につま先を真っ直ぐ、もしくは内に向けてみてください。
自然と膝も閉まっている状態になりましたよね。
僕の経験上、気付いたら膝が開いてしまうという方は膝云々の前につま先の向きが適切ではないことがかなり多いです。
もちろん強いブレーキングや低速走行の際は意識して強めに膝を閉める必要がありますが、通常の公道走行においてはつま先が真っ直ぐ向いていて自然と膝が閉まっている程度のニーグリップで事足りることが大半です。
なのでニーグリップがよく分からない・膝が勝手に開いてしまうという方は、先ずは難しいことを考えずにつま先の向きに着目していただくのが良いのではないかと思います。
ただ繰り返しになりますが膝やつま先が開いていようが踵やふくらはぎを上手く使うことでニーグリップと同じ効果を得ることはできるので見聞きしたことをそのまま鵜呑みにするのではなく、試行錯誤しながら自分にとって最良な運転姿勢を見つけることが大切です。
以上が「正しいニーグリップの仕方」でした。
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